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実質返戻率に問題がある理由

2012年03月12日(月)

先週のコラムの記事について、お客様から質問を受けました。

「なぜ実質返戻率に意味がないの?」と。

お答えします。

用語の説明から始めます。

解約返戻率=保険の解約返戻金/保険料の累計

この返戻率には単純返戻率と実質返戻率という考え方があります。

まず、単純返戻率は上記算式の分母の保険料を実際に支払った保険料で計算します。

これに対し、実質返戻率は保険料の損金算入による法人税の節約額を控除して計算します。

例えば、

全額損金算入の保険料:100万円(年間)

5年後の解約返戻金:300万円

法人税率:40%

の場合、

単純返戻率=300万円/100万円×5年=60%

実質返戻率=300万円/(100万円-100万円×40%)×5年=100%

となります。

以上を踏まえて、設例で考えます。

<保険を利用しない場合>

・経常利益200が8年続く。

・5年目に500の役員退職金が発生する。

・法人税率40%

所得 法人税

1年目 200  80

2年目 200  80

3年目 200  80

4年目 200  80

5年目△300   0(欠損金300発生)

6年目 200   0(欠損金200控除)

7年目 200  40(欠損金100控除)

8年目 200  80

合計 1100  440

8年間の資金収支1100-440=660

<全額損金算入の保険を利用する場合>

・経常利益200が8年続く。

・年間100の全額損金算入の保険に5年間加入

・5年後に解約返戻金300(実質返戻率100%)

・5年目に500の役員退職金が発生する。

・法人税率40%

所得 法人税 

1年目 100  40

2年目 100  40

3年目 100  40

4年目 100  40

5年目△100   0(欠損金100発生)

6年目 200  40(欠損金100控除)

7年目 200  80

8年目 200  80

合計  900  360

8年間の資金収支900-360=540

資金収支では、保険を利用する場合と比較して保険を利用しない場合は120も有利となっています。

節税したつもりが会社の資金を減らす結果になるのであれば、完全に本末転倒です。

では、実質返戻率100%といいながら、なぜこのような差が発生するのでしょうか?

それは、実質返戻率という考え方には、保険料支払時の税効果は考慮されているが、解約時・解約後の税効果が考慮されていないという致命的な欠陥があるためです。

なお、保険を利用する場合が有利になるのは、単純返戻率が100%を超える場合に限られますが、そのような保険は殆どないのではないかと思います。

私は保険が駄目と言っているのではありません。

「保険で節税」という安易な考え方に問題があると思うのです。

経営上の様々なリスクに備えるため、保険は必要な「保障」の度合いに応じて加入すべきものではないでしょうか?

信和綜合会計事務所(大阪市中央区の税理士法人)

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